メモ帳

しらとりまな(てまり)のメモ帳です。

「ナマエハ マダナイ」4月のショートストーリー

「花見がしたいと思わない?」 みさは、“モモ貴族焼きタレ”を串から外しながらそう言った。 みさがこういう言い方をする時はたいてい決定事項で、語尾をクエスチョンで終わらせているのは「ユイだってそう思うでしょう?」という意味。小悪魔的というか、な…

黒い箱:1

なくしたんです 大切だと思っていました きっと大切にしすぎたせいで なくしてしまったんだと思います なくなってしまったら 大切なものが何だったのかが分からなくなってしまって ここがどこで どんな色をしていて 2本の足が地面にくっついているのか 空気…

おそらく深夜2

長女は今 父親の死を目の前に 足元を見つめ 意識をさまよわせた あれは 恐ろしさを知らない 最後の夏休み その日初めて ボーイフレンドと メールのやり取りをしたんだ 見ないようにしていた時間と もう少しと祈る今を あなたは 仕方がないと言った 悲しいけ…

おそらく深夜1

野ざらし 冷たい雨と 砂埃を立てる風が お気に入りのオーバーオールを黒くしていく 野ざらし 白く光る太陽が 肌を焼いた 夢へと誘う月が 脆い心を砕いた それでもわたしは帰らなかった 帰るところがどこなのか 忘れているのだ いや はじめから知らなかったの…

海と毒の話A:1

あのこが死んだ わたしのいっとう大切にしていた、あのこが死んだ。 夏の暑い夜 海に入って、そのまま帰ってこなかったらしい。 と、共通の知人が噂しているのを聞いた。 あのこのことを、わたしに直接話す人はいなかった。 そのくらいの距離 そのくらいの関…

海と毒の話:4

他人に触れるということが あまり得意ではなくて 母親と手を繋ぐのも たまに抱きしめられるのも 恥ずかしくて うまくできなかった 死にたいとまでは思わないけど 蒸気になって消えてしまいたいって思うことない? そう問いかけたのは わたしだったか あのこ…

海と毒の話:3

お月様 お願いだから ちょっと黙ってて もう少し考える時間を頂戴 寝たふりをしていた あなたの指がわたしの唇に触れた 一周ぐるりと撫でて その後はじっと見つめるだけだった ねえ なんでそんな風に なんでもなかったみたいに 他の誰かと眠れるの 有線に吸…

海と毒の話:2

一日をはじめるのが 難しくて一日を終えるのは それ以上に難しい声が聞こえているなら 目をさまして こっちを向いてあなたの胸に沿って落ちる影だけが 本当のわたしのような気がするあなた一人さえこぼしてしまう手は 何を掴めるのだろう何にもなれないまま …

海と毒の話:1

ずっと前から 今日だと決めていた。 昨日どこかで 大きな地震があったらしい。 大きな地震とか 火事とかがあると それがどこで起こったことでも あれは今無事だろうかと 考えてしまう。 お母さんよりも先に あれの顔を思い出してしまって そんなことお母さん…

かさぶた

かさぶたを撫でるのが好きだ。 その匂いを嗅ぐことも。 おてんばな上に斜視があってよく転んだので 子どもの頃のわたしの体には、いつもどこかしらにかさぶたがあった。 膝小僧のかさぶたに指の腹を這わせて これ以上強く触ると破れて血が出てしまうのではな…

紺の長袖

お気に入りの紺の長袖がボロボロになってしまった。 ボロボロになった。 というか 全面毛羽立って 元の材質とは異なった布になってしまった。 くたびれている。 という方が、近いかもしれない。 これは、去年京都に住んでいた頃 働き口を紹介してもらって そ…

はじめました

こんばんは てまりのしらとりまなです。 文字にすると、全部ひらがなで本当に読みにくいですね。 ここまでがデフォルトの挨拶です。 思い立って、ブログなどをはじめてみました。 最近はTwitterばかり盛んで 140文字以上の文を書くことが少なくなってしまし…